「オーストラリア」からようこそ

フジサンタカイネ

 

第15回

 日本海側の寒波や豪雪のニュースが多いこの冬も、静岡県では比較的温暖で安定した天気が続き、連日のように富士山が姿を見せてくれている。ご存知の方もいると思うが、富士市では約27年前から毎日、富士山がどの程度見えたかを市役所の定点カメラと目視で観察し、データ化している。「全体が見えた」「一部が見えた」「全く見えない」の3種類に分類したもので、富士市のウェブサイトでも自由に閲覧することができる。この記録によると、富士山の全体が見えるのは例年12月から1月にかけてが最も多く、去年は1月に全体が見えた日が18日もあったようだ。

第15回 フジサンタカイネ1 ・・・と、ずいぶん前置きが長くなってしまったが、要するに冬は当コーナーの繁忙期ですよという話である。心地良く晴れ渡った1月下旬、いつものように外国人観光客を探してJR新富士駅を訪れると、さほど待つこともなくターゲットを発見。カップルかと思いきや、意外にも姉弟での二人旅だった。姉のナタリー・ウォルシュさん(20歳)と弟のカラン・ウォルシュさん(18歳)。まだあどけなさも残る二人はオーストラリア南部、ブリスベン近郊の(とはいえこれは現地の感覚で、実際には120キロも離れているが)キャッスルメインという小さな町からやって来た若者だ。ナタリーさんは3週間、カランさんは2週間の日本滞在で、別々に来日した後、東京で合流。新幹線で京都へ向かう途中、富士山がきれいだったため、新富士駅で途中下車。富士市にはわずか4時間の滞在だが、駅の周辺を散策して、富士山を眺めながらランチを楽しんだという。「大自然が有名なオーストラリアでもこんなにきれいな姿の山は見たことがありません。今日は富士山の全景を見ることができてラッキーでした」と大絶賛。

右上写真:にこやかな表情からも仲の良さが伝わってくるナタリーさん(右)とカランさん(左)姉弟。カランさんの着ているセーターは東京の古着屋で一目惚れして購入したものらしい。

 この後は京都、奈良、大阪を巡り、香川県の直島を訪れる予定という。直島は瀬戸内海に浮かぶ小さな島全体に現代アートの作品が点在する近年人気のスポットだが、初来日の観光ルートとしては珍しい選択にも思えた。聞くところによると、ナタリーさんは大学で服飾デザインを学び、現在は映画の衣装デザイナーを目指してインターンとして活動中とのこと。アートにも興味があり、オーストラリアではまだあまり知られてないが、直島にはぜひ行ってみたかったそうだ。また、日本の食べ物で気に入ったものを訊くと、寿司でも天ぷらでもラーメンでもなく、キャンディーとの答え。「日本のキャンディーにはいろいろな種類や味があって、どれも美味しいから好き!」と、この日一番の笑顔を見せてくれた。

 高校卒業直後で大学進学を控えているという弟のカランさんも、ファッションに興味があるお年頃だ。東京で一番楽しかった場所を訊くと、「ビンテージショップ(古着屋)」と即答。その一方で日本文化の奥深さに関心があるそうで、「京都や奈良では古い寺社や伝統的なものにたくさん触れたい。将来的には日本に長期間滞在して英語の教師をやってみたいです」とも語ってくれた。ちなみに日本茶が大好きだというので、「ここ富士市はお茶の産地としても有名なので、この町で英語の教師になったらもう最高ですよ」と抜け目なくプッシュしておいた。美味しいお茶と富士山を目当てに、彼がいつか再びこの地に来てくれることを祈りたい。

余談だが、前回の取材に続いて偶然ながら2回連続でオーストラリアからの旅行者に出会う形となった。オーストラリア全土では現在、「そうだ 富士山、行こう。」の一大キャンペーンとブームが巻き起こっているとか、いないとか。

第15回 フジサンタカイネ2 第15回 フジサンタカイネ3
後日、編集部に送られてきた写真。直島ではレンタサイクルで島内を巡ったとのこと。 芸術家・草間彌生氏の有名な作品『南瓜』も楽しんだそうだ。