能楽と三種の神器

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甫の一歩

 

第7回

能楽と三種の神器

 ジメジメとした梅雨を経て、季節はいつの間にか夏となりました。近年は温暖化の影響か、暑くなるのが早まっているように思います。昔は7月に入って単衣(ひとえ)から薄手の絽(ろ)へと衣替えをしましたが、最近は6月半ばには絽を使い始める傾向にあります。絽の紋付きは見た目には涼しげに見えるかもしれませんが、しかし実は、単衣に比べて涼しくなるというわけではありません。それはやはり、最近の紋付きは洗濯できるように化繊で仕立てるからでしょう。夏は薪能(たきぎのう)など野外での演能も多く、すぐに汗だくになりますので、気軽に洗濯できる化繊の絽の紋付きは重宝します。昔ながらのちゃんとしたものではなく、見た目だけが涼しげな絽の紋付きを着て仕事に飛び回る今日このごろです。

 さて、時代は平成から令和へと移り、2019年は御代(みよ)が変わる記念すべき年となりました。
 能は江戸時代に幕府の式楽となりました。式楽とは、儀式に用いられる芸能のことです。平安時代に宮廷の行事として固定化された雅楽も式楽ですが、江戸時代において、江戸幕府が能を武家の式楽として規定したのが有名で、式楽といえば能をさすことが多いといわれています。そんな式楽である能楽は、天皇陛下の崩御ではなく、生前退位という予定された皇位継承が行われたこのたびの新天皇の即位を祝い、日本各地でたくさんの奉納の舞が舞われます。

 ところで、天皇の即位にあたり宮中ではさまざまな儀式が執り行われますが、「剣璽等承継の儀(けんじとうしょうけい)」という言葉をニュースや新聞などでお聞きになった方も多いかと思います。
 そもそも、皇位継承の一連の儀式には大きく分けて、

  1. 皇位の証である三種の神器を受け継ぐ儀式
  2. 即位した事を内外に示す即位式
  3. 即位した天皇が即位後初めて五穀豊穣を神に感謝する新嘗祭(にいなめさい)

の3つがあります。この一連の儀式の最初にあたるのが、皇位の証である三種の神器を受け継ぐ儀式、すなわち剣璽等承継の儀となります。

 これら三種の神器は、能楽にも深く関わっているのです。「天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)(いわゆる草薙剣(くさなぎのつるぎ))」は、能『草薙(くさなぎ)』においてシテ・日本武尊(やまとたけるのみこと)が実際に手に持ち、その神剣の力で東夷(とうい)を征伐した時の戦いを再現します。また「八咫鏡(やたのかがみ)」と「八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)」は天照大神(あまてらすおおみかみ)の「天の岩戸開き」の時に使われたといわれています。この岩戸開きの有様が能『三輪(みわ)』と能『絵馬(えま)』のなかで詳しく描写されています。

 我々能楽師は、これらの演目を舞台で謡い舞うことで擬似体験をしています。はるか昔の、本当にあったことなのか、作り話なのではと疑ってしまうようなこれらの出来事ですが、しかし今回の剣璽等承継の儀で三種の神器がその神性を古のままに保ちつつ現代まで引き継がれているのを目の当たりにすると、能で描かれる世界がたしかに存在していたように思い、なにかとても心地の良い、力強い気持ちになるのです。神秘なる三種の神器に思いを馳せつつ、新しい令和時代も稽古に励み、能楽に貢献できるよう精進します。

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能面 『泣増(なきぞう)』
作者不詳  宝生流特有
『三輪』後シテ:三輪明神に使用され、神秘性の高い細長な顔が特徴的。

宝生流能楽師 田崎 甫(たざきはじめ)

第13回 臥牛サロン

2019年7月29日(月) 18:30~
場所:臥牛敷舞台 (富士宮市粟倉南町132)
参加費:座布団自由席2,500円・椅子指定席3,000円・高校生以下1,000円
問い合わせ先:0545-38-9939 (たざき)

田崎氏がプロデュースする『臥牛サロン』が1周年を迎えました。
2年目の本年は、毎回共通のテーマを持つ複数演目での構成。謡と仕舞のみどころをたっぷりと楽しめます。

 

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