Vol.150 |木工作家 仁藤 美樹

仁藤 美樹さん

ものづくり生活

自分好みの雑貨やインテリア、ちょうどいいサイズの棚を探してお店を巡るのも楽しいが、時間があったら手作りしてみると、ちょっと違う世界が広がるかもしれない。子育てに追われる専業主婦をしていた仁藤美樹(にとう みき)さんは、娘さんのための子どもキッチンセットを自分で作ったのがきっかけで、家のリフォームや庭づくりなど、趣味の世界が大きく広がった。

原動力は、作品が完成した時の達成感と子どもの笑顔。自分で発信せずとも周りから認められ、「これもご縁のおかげ」としながらDIYの手ほどきをする仁藤さんの木工教室には、かつての仁藤さんのように子育て中のお母さんたちをはじめ、幅広い世代の女性が集まる。器用に工具を扱う仁藤さんの姿は頼もしくもあり、お母さんの優しさで溢れている。

仁藤さんが木工やインテリアに興味を持ったのはいつ頃ですか?

小学生の頃から雑貨やインテリアが大好きで、友だちがアイドル雑誌を読んでいるのに、私はインテリア雑誌ばかり読んでいたんです。でも、好きというだけで趣味の世界のことだと思っていたので、職業にしようなどとはまったく考えていませんでした。高校で進路を考える時も、当時興味のあったスポーツに関わっていたいという想いから体育大学へ進学しました。在学中は選手兼学生トレーナーとして陸上部に在籍して、卒業後は実業団の女子陸上部のマネージャー兼トレーナーとして働きました。

インテリアに関して私にとって衝撃的だったのは、大学の所在地・横浜で生活雑貨のお店『無印良品』と出会ったことです。シンプルなものが大好きだったんですが、当時はそういうものが身近にあまりなかったんです。私が地元に戻るタイミングで富士にも無印良品のお店ができ、そこで働くことになり、結婚後はインテリアは好きなものを買い揃えるというのが当たり前になっていました。

木工のきっかけは、娘が3歳くらいの時に木製の子どもキッチンのセットを夫に作ってもらおうと思ったことです。夫は土木関係の仕事をしていて木工作業は得意なんですが、仕事が忙しくてなかなか作ってくれなかったんです。私は当時年子の子育てで専業主婦をしていたので、大変ではあるけれど時間はありました。だから作ってくれないなら自分でやろうと、半分夫に対するあてつけでしたね(笑)。設計図や作り方も分からず、雑誌の見よう見まねでした。地元のホームセンターに通い、家にあるノコギリとドライバーで手にマメを作りながら完成させた子どもキッチンが最初の作品です。今見ると不恰好ですが、当時は思ったものが形になったというのがすごく嬉しかったんです。作品が大きい分、達成感も大きいんですね。それがDIY、いわゆる日曜大工に目覚めるきっかけになりました。

手作りの子どもキッチン

初めての作品となった子どもキッチン

今でこそ「DIY女子」という言葉もあるほどDIYをする女性が増えていますが、当時は珍しかったのでは?

全国的にもまだ珍しい頃で、インテリア雑誌などで取り上げられている人はいましたが、ホームセンターの資材コーナーは作業着を着ている男性客ばかりで、子どもを二人連れた私は浮いた存在でした。今は男性でも女性でも、家のものを作っている人がたくさんいますね。私が始めた頃に比べたら、電動ドライバーも手に入りやすく、しかも扱いやすくなっていますし、ホームセンターのサービスも、木材のカットや工具の貸し出しもあり充実しています。ネジの小分け販売など、一般消費者にとっても最近は購入しやすくなりました。女性用の工具もあるんですよ。私が講師をしている木工教室や富士市内のまちづくりセンターの講座の参加者もほとんどが女性です。

仁藤さんにとって木工の魅力は何でしょうか?

やはり、木の温もりや手触りがいいんでしょうね。自然のものですし、使い込むうちに年々味が出てくるんです。古材を使う場合もあり、どこでどんなふうに使われてきたかなど、木の持っているストーリーにも惹かれます。そのストーリーが味わいにつながって、愛着が湧くんですね。

実は私は図画・工作が苦手で、絵は描けないんですよ。芸術的センスがないと思うんです。たとえば陶芸は、同じ作るという作業ですが、自分の独創性みたいなものが求められますよね。私はそこは追求していないんです。きっと木工にはまったのは、その形が決まっているからだと思うんです。オリジナルのものではなく、誰にでも作れるものが作れればいいんです。『目立たないのが個性』というのでしょうか。作りたい人もいれば、買う方がいい人もいる。私は作りたい人なんです。

仁藤さん

「誰にでもできる」ことに
価値がある

木工やDIYをしていて喜びを実感するのはどんな時ですか?

DIYにはまるきっかけになったのは達成感です。子育て中は、毎日ご飯を作って食べさせて、おむつを替えてということの連続で、『今日何かを成し遂げた』という達成感を得るのは難しいものです。むしろ『あぁ、今日も一日これで終わっちゃった』という感じの繰り返しでした。そういう時期に、自分でやってみようと作り始めたんです。毎日の生活で、あったらいいなと思うものを自分の好きなテイストで作り、それが暮らしの中で機能していくことが嬉しいんです。ごちゃごちゃになっていた子どものおもちゃを片付けて自分の作ったものを置き、そこに花を飾って、お友だちが来た時にはちょっと得意にもなれます。

すると今度はお友だちに頼まれて作るようになり、フリーマーケットに出店するようにもなったんです。さらに子どもの幼稚園のお友だちのお母さんたちから広がっていき、幼稚園の依頼でお母さんたちに木工教室をしたこともあります。上の子どもたちが幼稚園に通い、3人目が生まれたばかりの頃でしたが、この時期はDIYや木工に夢中でした。フリーマーケットに初めて出店した時に、次のイベントにもどうかと声をかけてもらったり、同じイベントに参加していた方と仲良くなって一緒にお店を出したりと、たくさんのご縁にも恵まれました。自分自身が熱望していたわけではなかったんですが、気がついたら本当に自由にやりたいことをさせていただけるようになっていました。ありがたい限りです。

『野の店』

仁藤さんが地域のイベントなどで共同出店している『野の店』
(「ふじのくにアートクラフトフェア」にて)

仁藤さんのお家は、リフォームや庭づくりで雑誌や本に登場していますね。

今住んでいるのは、結婚して住むところを探していた時に夫の知人からタイミングよく借りることになった家です。当時築20年ほどでしたが、広い家でしたし、間取りを変えなければ好きにしていいという寛大な大家さんでした。でも住み始めた頃は、リフォームなんてするつもりもなかったんですよ。お庭には立派な松が植わっていましたし、大きな石もあります。リフォームも庭づくりも住み始めて5年くらい経ってから始めたんです。夫にも協力してもらい、ウッドデッキや庭に小屋も作りました。その後、雑誌の『収納&インテリアグランプリ』という企画で準グランプリになって、雑誌や本でも取り上げられました。でも賃貸の家なので、引越す時にはウッドデッキをはじめリフォームを施したところはすべて外せるようにしてあるんです。

作家として、また木工教室の講師として活動を広げていらっしゃいますが、今後特に力を入れていきたいのはどの分野ですか?

教室に力を入れていきたいと思っています。私は大学で木工を専門的に学んだわけでも、どこかで修業したわけでもなく、本当に『お母さんのDIY』なんです。私がやってきたことは特別な技術がいるわけでもなく、やろうと思えば誰でもできるんです。現在は地元住宅メーカーの富士木材さんのショールームで木工教室をしていますし、今年度は4ヵ所のまちづくりセンターで講座をやります。

私自身もそうでしたが、初めてDIYに挑戦する時は、何から手をつけたらいいのか分からないものです。今はインターネットで検索すればいろいろと情報は出てきますが、初心者向けの簡単な情報が少なくて、道具の使い方や材料の選び方、本当にちょっとしたことを聞きたい時に対応してくれるところがなかなかありません。さらに作業する場所がなかったり、道具や材料を揃えるのが大変だったりもします。本を見ながら作業するにしても、本のとおりの材料が地元で手に入るとも限りません。ホームセンターの手頃な価格の木材で作りたいという時に、臨機応変に教えてくれる人がいたらいいと思うんです。

私が始めた頃と今とでは状況が違うかもしれませんが、それでも自分がこれまでやってきて困ったところを教えてあげられるようにという気持ちが教室につながっているんです。ちょっとしたものを作りたくて教室にいらっしゃる方が多いんですよ。お子さんやお孫さんのために椅子や机を作っていると、無心に金づちを打ったり、ヤスリがけをしたり、日常とは違う時間を過ごすことでリフレッシュもできるんですね。そして、でき上がった時の達成感。1回2時間くらいの講座ですが、大きなものを抱えて帰る時の充実感がいいんでしょうね。それに受け取った人が喜んでくれることが嬉しいんだと思います。

専業主婦をしたことがあるから感じるのかもしれませんが、『働いているお母さんはすごい』という風潮もあり、私はなんとなく引け目を感じていましたが、きっと仕事をしていたとしたら、作らずに買うことを選んでいたと思うんです。専業主婦だからこそできる時間の使い方もあるんです。子育てに追われている方もいると思いますが、きっと『あの時間があったからこそ今がある』と思える時が来ます。無駄な時間はないんですよ。きっと未来につながります。

Title & Creative Direction/Daisuke Hoshino
Text/Kazumi Kawashima
Cover Photo/Kohei Handa

【取材・撮影協力】 富士木材株式会社

仁藤 美樹
木工作家

1974(昭和49)年8月3日生まれ
富士市出身・在住
(取材当時)

にとう・みき/吉原第三中、富士東高、日本体育大学卒業。日立製作所水戸工場女子陸上競技部のマネージャー兼トレーナーとして2年ほど活動後、地元の富士へ戻り無印良品で働き始める。結婚・出産を機に専業主婦となり、子育て中に始めた木工で注目され、2010年には『第2回ESSE収納&インテリアグランプリ』の準グランプリに。『Come home!vol.24』(2011年・主婦と生活社)、『手をくわえるほどに愛着が増していく ナチュラルガーデニング~手づくりの庭のひみつ~』(2013年・学研パブリッシング) などでも紹介される。現在、ドライフラワーリースの作家と一緒に『野(の)の店』として地域の手作りイベントなどに出店している。教室は富士木材・フジモクの家キト暮ラスカの木の工房『Tsukuruka(ツクルカ)』で月に2~3回木曜日に、また今年度は大淵、富士南、富士見台、元吉原の4ヵ所のまちづくりセンターの講座で講師も務める。高1、中3、小4の二男一女の母。

Nutshell 〜取材を終えて 編集長の感想〜

今回の撮影にあたり、仁藤さんのご自宅にもお邪魔させていただきました。訪れた人に「あ、このセンスいいな」と感じさせるオシャレさと、実際に住んでいる人の楽しい生活が伝わってくる温かな生活感。このふたつがバランスよく両立している、ステキなお宅でした。誰かを感心させようとか自己表現しようなんてあまり気負いすぎずに、身近な環境を少しずつ自分や家族にとって心地よい世界に作り変えていったらいつのまにかこうなっていました、という風情です。

「誰かのため」と「自分のため」。このふたつの動機のちょうどいいバランスが、仁藤さんの活動の根幹にある気がします。家族のためになにかを作る。その時間は同時に、いちばん無心になれて、自分らしい自分になれるひとときでもあります。母親としての(あるいは父親としての)毎日に追われていつの間にか「素の私ってなんだっけ?」と感じた人は、仁藤さんの教室を訪れてみればそこで答えが見つかるかもしれません。

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