「スロバキア」からようこそ

フジサンタカイネ

 

第13回

 11月上旬に富士山スカイラインが冬期閉鎖となり、富士山はまたしばしの間、「遠望を楽しむ山」となった。登山客がいないこの時期、富士・富士宮で外国人旅行者に会えそうな場所は限られる。今回は手堅く、富士山本宮浅間大社に狙いを定めて訪れてみた。

第13回 フジサンタカイネ1 ところが、この日は好天ながらも参拝客が少なく、苦戦を強いられた。境内を行ったり来たりでひたすら待つこと約2時間。そろそろ心が折れそうになってきた頃にようやく、特大のスーツケースを持った男性二人組を発見。濃いサングラス、しかも寡黙で屈強そうなその姿に、一瞬声をかけることをためらったが、二人がおもむろに池の鯉を背景に笑顔で「自撮り」を始めたため、これはナイスガイに違いないと確信。インタビューを敢行した。

 その予想通り、気さくに対応してくれたのはヤンさん(42歳)とペーターさん(38歳)の兄弟だ。出身はなんと、中欧のスロバキア。革命を経て1993年にチェコスロバキアから分離独立したスロバキアは、日本ではまだあまり馴染みのない国といえるだろう。取材時にも「どこに住んでいますか?」という質問に「ブラチスラバです」という答えが返ってきて、思わず目が点に。ブラチスラバがスロバキアの首都であることをその場で教えてもらうという失態を演じてしまった。

右上写真:兄のヤンさん(右)と弟のペーターさん(左)。日本で気に入った食べ物を聞くと、うどん、たこ焼き、牛丼と、今すぐショッピングモールのフードコートへ招待してあげたくなるような品々が並んだ。

 日本滞在は8日間とやや過密な日程で、取材の翌日には帰国の途に就くとのこと。時間を有効に使うため、宿泊先は全て事前にインターネットで予約し、新幹線のフリーパスを最大限に使って、東京・京都・広島などを訪問。ルートの最後に富士山周辺を巡っている最中だった。ここまでのハイライトとして挙げてくれたのは、広島県尾道市と愛媛県今治市を結ぶ、瀬戸内しまなみ海道。内陸国のスロバキアでは決して見ることができない雄大な海と島々を結ぶ橋の景色に魅了されたそうだ。

 日本の魅力について聞いたところ、ビデオゲームの制作に携わるヤンさん、IT関連企業に勤めるペーターさんともに、日本の科学技術には特に関心があるようで、 「最先端の技術と古来からの伝統が混在しているところ」だという。「新幹線を降りたらすぐに古い神社が現れるなんて、面白い!」という言葉も印象的だった。その一方で、「日本人は宗教的に信仰していなくても、神社ではあんな風にちゃんと頭を下げたり手を叩いたりするんですね。それがとても不思議です」と、拝殿の前で参拝する人々をしげしげと眺めていた。

 別れ際、「ここで僕たち外国人を見つけて取材したのは、偶然?」と逆質問があった。「いえ、お二人に会えたのは偶然ですが、外国人に会えたのは偶然じゃありませんよ。だって誰かに会えるまで、ここで2時間待ってましたから」 と答えると、今度は二人の目が点になっていた。

第13回 フジサンタカイネ2 第13回 フジサンタカイネ3
手水の作法を教えてほしいという要望があり、レクチャー中。「科学的にはきれいな水ではないかもしれないが、儀礼的にはきれいな水である」ということを説明するのに一苦労。 後日、スロバキアから編集部にメールで届いた写真。
第13回 フジサンタカイネ4
瀬戸内しまなみ海道では橋の歩行者用道路でサイクリングを楽しんだという。