「タイ」からようこそ

フジサンタカイネ

 

第23回

 もしもこのコーナーを楽しみにしていただいている読者の方がいるとすれば、かれこれ20回以上連載してきた中で、アジア圏からの旅行者が意外と少ないことにお気づきかもしれない。アジアから日本を訪れる個人旅行者は増えているにもかかわらず、このコーナーではあまり登場しない理由はただ一つ。遠目から見て日本人と見分けづらく、声をかける踏ん切りがつかないからである。

第23回 フジサンタカイネ1 初詣の賑わいが落ち着いてきた1月中旬、富士山本宮浅間大社を訪れたところ、今回は東南アジア・タイからの旅行者に話を聞くことができた。やはり最初は外国人かどうか確信が持てなかったのだが、この二人が年配の女性に日本語で話しかけられ困惑している姿を目撃し、これは間違いないと急接近。お互いに話が伝わらず気まずい雰囲気になっていたところに割って入る形で、そのままインタビューに持ち込んだ。ちなみにこの女性は「湧玉池に映る赤い橋がきれいだから写真に撮んなさいよ、お兄さん」と伝えたかったらしい。

写真:タイ・バンコク在住のアティチャーンさん(左)とジッスパーさん(右)

 アティチャーン・チェンチャワノさん(33歳)とジッスパー・チンさん(35歳)は、ともにジャーナリストとして活動しており、公私にわたるパートナーという間柄。タイでオンラインメディアビジネスを立ち上げ、最先端の工業技術やデジタルサービスなどに関する情報を発信しているという。「日本に来たのは初めてですか?」というお決まりの質問に対して「10回目です」という答えが返ってきたのには驚いたが、取材の仕事で日本を含む海外を飛び回っているとのこと。今回の来日はプライベートで、わずか4日間の滞在ながら、大好きな日本を楽しんでいるという。「休暇にどこかへ行こうとなったとき、私たちがいつも最初に候補に挙げるのが日本なんです。日本は清潔で、食べ物は美味しくて、人々は親切です。コンビニやドラッグストアには品質の良い化粧品や日用品が揃っているので、いつもたくさん買い込んで帰ります。特に欠かせないのは、タイでは売られていない入浴剤です。すごくいい香りがしますよね。また今回の最大の目的は、原宿で開催されている期間限定のカフェに行くことでした。『にゃんことくま』というLINEスタンプのキャラクターとのコラボカフェで、グッズもたくさん買っちゃいました」と、嬉しそうなジッスパーさん。

 そんな都会派の二人に、富士山の印象について聞いてみた。「今回は東京だけではなく、ちょっと足を伸ばしてみようと、レンタカーで富士山周辺をドライブすることにしました。今日はこの後、河口湖のホテルに宿泊しますが、富士山はどこから見ても息を呑むような美しさです。天気も良くて、日本の自然の素晴らしさを満喫することができました」と、アティチャーンさん。このインタビューの前には富士山世界遺産センターを見学したそうで、 富士登山を疑似体験できる螺旋状の展示ルートや最上階のテラスから見る富士山の壮大な景色に強く心を打たれたという。

 昨年は日本以外にもアメリカ・イタリア・スウェーデンなどを訪れ、数週間後には仕事で南アフリカへ行くとのこと。世界中を旅する二人に、タイと日本の似ている点と異なる点を聞いてみたところ、ジッスパーさんの答えがとても印象的だった。「アジアの国同士ということと、米が主食でどちらの料理も美味しいということ以外、あまり共通点はないかもしれませんね。タイの人々は何事にもあまり心配しない気質があって、『サバーイ・サバーイ』文化とも呼ばれます。サバーイというのは、『快適』『元気』という意味で、ルールや時間に縛られなくてもいいよと、お互いが許容し合っている文化なんです。一方で、日本の社会は組織化されていて、人々は規律を守ります。電車やバスは時刻表通りに出発するので、日本に来たときは私たちも慎重に行動しています(笑)。何よりも大切なのは、タイと日本に限らず、文化の異なる国を訪れることで、お互いについて学び合うこと、そして新たなインスピレーションを得ることだと思います。私たちは多くのことを教えてくれる日本の文化を心から尊敬していますし、これからもきっと一番好きな国であり続けると思います。」

タイではテレビ番組の司会やコラムニストとしても知られ、フォロワー数約12万人を誇るジッスパーさんのインスタグラムに投稿された写真より
第23回 フジサンタカイネ2 第23回 フジサンタカイネ3
富士山世界遺産センターのテラスにて。「Mt. Fuji all for me(私だけの富士山)」と添えられた言葉からジッスパーさんの思いが伝わってくる。 原宿でコラボカフェを楽しむ二人。ここに来ることを目的としたファンが海外から集まる日本のサブカルチャーのパワーを改めて感じる。