骨盤底筋群について

産婆の住む街から

 

第2回

骨盤底筋群(こつばんていきんぐん)について

 今回は、骨盤底筋群についてお話させていただきます。「骨盤〇〇」というと、「歪んでいる」とか「開いている」と心配される方がいますが、今回は骨ではなく骨盤に付着している筋肉のお話です。

 骨盤の下方には骨のない穴になっている部分があります。骨盤底筋群は、膀胱や子宮、直腸などの骨盤内の臓器が落ちてしまわないように、色々な方向に張り巡って塞いでいる細かな筋肉の集合体です。骨盤の前方にある恥骨と左右の坐骨、尾骨を結ぶひし形の部分、ちょうど自転車に乗ったときにサドルに接するおまたの部分に位置しています。

 その合間を尿道や膣、直腸が通っているので、締めつけたり緩めたりして便や尿が漏れ出さないように排泄をコントロールしています。そのため、骨盤底筋群の働きが悪くなると、便や尿、おならを漏らしたり、逆に上手に出せなくなってしまったり、女性では子宮頸管や膣の壁が外に飛び出してしまうといったトラブルを引き起こしてしまうのです。

 骨盤底筋群の働きを悪くする大きな原因は、妊娠・出産と加齢といわれています。妊娠してお腹の赤ちゃんが大きくなると、その重さで骨盤底筋に負荷がかかります。また、臓器を支えている靭帯、筋膜が過剰に伸ばされ、経腟分娩ではさらに大きな力で骨盤底筋群にダメージを与えることになります。そのため、妊娠中や出産後に、尿漏れなどの症状が現れる方は少なくありませんが、これは産後しばらくすると徐々に回復して大きな問題に至らない方がほとんどです。しかし、筋力の衰えが起こる更年期頃になると再び症状が出現、悪化し、生活に支障をきたすようになるのです。

 これらのトラブルを起こさないためには、骨盤底筋群を鍛えることと、負担をかけないことが大切です。当院では、出産したばかりの女性には、身体が回復してくる産後1ヵ月~1ヵ月半くらいは、できるだけ横になって休むようにしてもらっています。産道周囲が緩んだ状態で起き上がった生活をしていると、内臓の重さが骨盤底筋には大きな負担になるからです。

 フランスではこのようなケアが盛んで、授乳をするときにも横たわっているように指導され、産後はリハビリテーションとして保険も適用されるのだとか。日本も30年くらい前までは、出産後5日くらいはシャワーや洗髪もせずに7日間の安静入院、さらに「床上げ」という言葉もあって1ヵ月健診まではゆっくり過ごすことが当たり前でした。それがいつの間にか産後4~5日で退院して、その後の安静の意識も薄れてしまっています。

 また、骨盤底筋に弾力のある若いうちに出産していた昔に比べて、高齢での出産が増えています。近頃、きれいな女優さんが尿漏れパットの宣伝をしているのをよく見かけますが、産後を大切に過ごさなくなった世代が更年期を迎え、これからが心配になります。加えて、最近では生活スタイルが変化して便利になったため、和式トイレにしゃがむこともなく、小学校で床の雑巾がけ競争をすることもなくなっています。

 骨盤底筋群も腹筋や腕などの筋肉と同様に、トレーニングをして鍛えれば筋力アップすることも可能ですが、使わなければ衰えてしまうものです。つまり、昔は意識しなくても日常の生活の中である程度は鍛えることができていた骨盤底筋やそれと連動して働く体幹の筋肉も、今の時代では弱っていることが考えられます。自動車生活でほとんど歩かない人はさらに要注意かもしれませんね。

 次回は、「気がついた時から始めよう~骨盤底筋群のトレーニングと生活上の注意点」をご紹介します。

第2回 産婆の住む街から

堀田 久美(ほった くみ)
助産師/保健学博士
菜桜(なお)助産所代表