大切にされているご神木の治療について (土壌改良編)

樹木医が行く! 第11回

「樹木医って、いったい何をしているの?」といつも聞かれます。ミステリアスな職業のため、先日実施したご神木(推定樹齢400年)の樹勢回復作業(通称・治療)を例に、簡単に仕事について解説してみようと思います。今回の治療は大きく分けて2パートからなりますが、そのうちこの回ではまず「土壌改良」について書きたいと思います。

長年、境内へお参りに来た人たちが歩いてきた場所は土が踏み固められています。もちろんご神木が生えている根元の地面全体も、大変固くなっていました。これを専門用語で踏圧(とうあつ)といいます。この踏圧は、神社やお寺で樹木が弱る最も多い原因の一つです。さらに、ご神木の横50センチの位置に参道があり、参道工事の際に下の土はカチカチに固められ、とても根が伸びられない状態となっていました。

そこで今回、土壌改良を実施しました。土壌改良で最も重要なことは、肥料(養分)をあげることではありません。根を伸ばすことができるくらいに土を柔らかくすることです。そうすると、木は自分で水や養分があるところを探して、どんどん根を伸ばし、吸収することができます。鉢植えの植物では根を伸ばす範囲に限界があるので、次善の策として肥料をあげるのです。

今回は土壌改良にエアースコップという圧縮空気を使った土壌掘削器具を使いました。固い土をあっという間に砕いて、ほぐしてくれます。これで幹から5メートル以内の全面、深さ50センチ程度まで徹底的に土を柔らかくしました。同時に、再び土壌が固くなりにくくするクッション材をすき込みました。ただ、土を柔らかくする際、木の根を痛めたのでは元も子もありません。しかし、エアースコップは細い根もほとんど切ることはありません。根へのダメージを限りなくゼロに近づけるなかなかの優れものです。参道下については、ちょっと違う方法を行いましたが、これはまた別の機会に解説できればと思います。

土壌改良をしている作業中

土壌改良をしている作業中

さて、広範囲にわたってこれだけの作業を行いましたが、今回の治療の効果が目でわかるようになるまでには、3年くらいかかるでしょうか。成功しても失敗しても3年です。長期間の心配で胃が痛くなるような、気の長い仕事です。

今回は実例を挙げて、樹木医の世界をちょっと覗いてもらいました。いかがでしたか?

喜多智康プロフィール

喜多 智靖

樹木医
アイキ樹木メンテナンス株式会社 代表取締役
弱った木の診断調査・治療に加え、樹木の予防検診サービス『樹木ドック』を展開中。NPO法人『樹木いきいきプロジェクト』では、東日本大震災で津波被害を受けた宮城県石巻市での除塩作業や学校における環境教育授業を継続中。
喜多さんのブログ『樹木医!目指して!』
アイキ樹木メンテナンス株式会社
NPO法人『樹木いきいきプロジェクト』 

関連記事一覧

  • コメント ( 0 )

  • トラックバックは利用できません。

  1. この記事へのコメントはありません。